対談集
Water talk

汚れたペットボトルもリサイクルOK

変わり続ける環境問題を楽しむヒント

野口健さんは、登山活動の傍ら、富士山の清掃や災害支援活動、「野口健環境学校」でのリーダーの育成など、20年以上も環境問題に取り組み続けています。野口さんと代表の本井晃一は2019年10月の台風19号被災地支援のときに、災害現場の福島県相馬市で出会いました。自然の美しさや優しさ、そして残酷さを世界各地で体験している野口さんと、日本の水資源に向き合い続けている本井が、水をテーマに語り合います。

取材日時:2022.8.30

野口健さん(以下・野口):
最初にお会いしたのは2019年、本井さんは東京から支援物資のミネラルウォーターを乗せたトラックで駆け付けてきた。あれには驚きました。しかも東京から現地(福島県相馬市)までの300キロ以上の道を、たった一人で運転してきたという。

本井晃一(以下・本井)
台風や豪雨など、水災害の現場で最初に必要になるのは、飲み水です。濁流がライフラインをめちゃくちゃにし、水にさんざん苦しめられる。そしてすぐに水が必要になることもわかっている。だから、あの時は「行かなくては」という思いに駆られました。

野口:
水害は夏に多く、まず行うのは家や道路の泥かきです。炎天下で汗だくになるから、水を飲まないことには動けません。現場にいると、持ち歩きやすい500mlのペットボトルがちょうどいい。それ以上だと持つには重く、下が汚泥なのでボトルを置けない。500mlなら腰に下げたり、ポケットにも入れられますから。

本井
そうですよね。飲み水のみならず、シャワーやトイレ用にも水は必要なので、タンクローリーみたいなものや、大容量のポリタンクに水を入れて運びたいとも思っているんですよ。野口さんが災害支援活動に行くとき、僕も一緒に出たいと思っています。

野口:
山梨に倉庫がありますので、今度一緒に作戦を立てましょう。

本井
水災害を実際に見て、そこに水があるのに飲めないし使えないことにもどかしさを覚えました。というのも、私はずっと「飲めない水を処理して飲めるようにすること」に喜びを感じてきたからです。
会社員時代もそれに取り組んできて、湾岸部の巨大プラントで工業用水から濁りや菌を取り除く施設を作っていたんです。だから災害時も使えないかと、汚れた水を飲料水にするコンパクトなフィルターを開発しています。完成の際にはぜひご一緒したいと思っています。

野口:
そんなことができるんですか。私は長年、アフリカの様々な難民キャンプも訪問しているのですが、そこで問題になっているのも水です。トイレが足りないので、穴を掘ってそこで排泄すると、地下水が汚染される。キャンプは10万人以上が生活しており、大量の水が必要なのに、遠くまで汲みに行かなければならないのです。
ネパール大地震ほか、多くの被災地を訪れていますが、そこでも地下水汚染の問題は深刻です。

本井
いくつかのステップを踏めば、その地下水は飲めるようになりますよ。し尿系の汚染の処理は手法が確立しています。

野口:
今度詳しくお聞かせください。日本の山は今こそバイオトイレが普及しましたけれど、昔はそうではなかった。自然環境の問題は、忘れたころに影響が出てくるもの。し尿汚染の問題がそのうち出てくると想定しています。

本井
そうですよね。森や山の緑は、見た目には美しくても、実際は破壊されていることが多々あります。都市部の空気が山に運ばれ雲になり、水源地で降った雨に有害物質が含まれていることもありますから。かつてはその汚れを、山というろ過装置が処理してくれていたのに、今は草も少なく、木の根も張らず地層がやせてしまっています。

野口:
地表に落ちた水を草が受け止め、腐葉土が堆積した土中にしみこんでいく。そして、木の根や土のフィルターを落ち、地下に水が流れていくというプロセスをたどっていました。今は山を手入れする人がおらず、木が密集していて、日光が届かないために、地面の草が育ちにくくなっています。

本井
日本の植林計画は、1911(明治44)年に始まっています。その頃は山で焚き木を拾い、炭を作っていました。住居も木材がふんだんに使われており、生活と密接に結びついていました。
手入れする人ありきの植林計画だったのに、林業の離職が進み、山林の地表が貧弱になっています。そこに豪雨が降ったり、台風が来たりすると、すぐに土砂崩れが起こり村や町を飲み込んでいく。

野口:
それを知らない人、興味を持たない人が多いです。それは自然との接点がないからだとも思うんです。
今、アウトドアブームですが、あれは整地されたキャンプ場に機材を持ってきて組み立て、快適に過ごすことを目的にしています。虫や微生物も生息する土に、熱ダメージを与える焚火をし、そのままゴミを放置していく人も多いです。それでは自然の“いいとこどり”をしているにすぎません。
自然を体験するとは、何かの目的を持ち、心身を自然に合わせて、それを達成することです。かつて、入口としてボーイスカウトやガールスカウトがありましたが、今はその姿もほぼ見かけません。かつて日曜日の駅には制服を着た集団がいたのにね。今はみんな塾で勉強するか、家でスマホを見ています。
だから日本各地の小~大学生に自然と触れ合う機会を作る「野口健 環境学校」を始めたのです。そこで自然環境を深く知る、環境メッセンジャーを育成しています。

本井
あれは2000年の初めごろでしたね。年に何回も行い、ずっと続けていらっしゃいます。

野口:
富士山でゴミを拾ったり、屋久島や白神山地の自然に深く入り込んだり、佐渡の棚田で草取りなどを体験したり……そういえば、佐渡でトキが激減したのは、棚田がなくなったからなんです。トキはお腹に泥がつくことを嫌がる習性があります。だから、段差がある棚田がある地域でないと生息できないんです。

本井
動物の営みにも自然や環境が関わっており、全てに因果関係がある。人も動物であり、自然の中に生きている。それを忘れてはいけないと思います。

野口:
自然の循環を知る入口となるのは山です。だから、もっと知ってほしい。学校登山もありますが、あれは山を知らない先生が引率しているケースが多いです。学校指定のジャージと靴で行くから、危険なだけでなく疲れますしね。登山が先生と生徒のつらい思い出になってしまうと、山を避けるようになりますから。

本井
そうか。水源の問題は教育も関わっているんですね。経済や学歴の格差が問題になることが多いですが、経験格差も大きな問題です。

野口:
小中学校の活動の一環になればいいのです。「野口健 環境学校」では岡山県総社市はじめ、自治体と連携して、地域のゴミを子どもたちと拾ったり地元の山に一緒に登るような活動を続けています。
続けていると変化が見えてくる。数年かけて環境がよくなっていくという成果が見えると「続けよう」と思うのです。

本井
その点、海岸清掃は終わりがないです。日本海側の海岸には、国内だけでなく、中国、韓国、ロシアのゴミが流されてきています。沖縄のマングローブの森もゴミだらけ。どれだけ拾っても、流されてくるんです。

野口:
海洋プラスチック問題ですね。ペットボトルをはじめ、食品パッケージがやり玉に挙げられますが、それは身近にあるから目につくだけ。実際に清掃を行うと、海洋ブラスチックには釣り糸、網、罠などの漁具も多い。
ペットボトルも拾いますが、紫外線ダメージもひどく、汚れだらけ。あれではリサイクルに回せないと聞きました。

本井
そう思いますよね。でも今は違うんです。私たちが採用した再生ペットボトルの技術なら、どんなに損壊していても、ダメージがあっても、リサイクルできるんです。色がついていても、汚れていても、中身が入っていてもOK。粉砕して分離する最新技術なので、この処理をすれば、透明になり強度もあるペットボトルを再び作れるのです。

野口:
技術の進歩に驚きます。

本井
私たちはボトルからボトルへと循環再生できるこの技術で国内では初めて認証機関から「PETボトルリサイクル推奨マーク」を2022年に取得しました。今、鉄道や自動車会社ほか、多くの上場企業が私たちのオリジナルラベルの天然水の導入を始めています。

野口:
拾ったゴミが資源になるなら、街の清掃ボランティアの人などもやる気が起こる。僕が世界各国を巡り、日本人がすごいと思うのは、どこでもゴミを拾うこと。スタジアムでゴミを片づける姿に外国人が驚いていましたよね。

本井
拾ったゴミを生かすのもまた日本の技術なんですよね。今、飲料水はお金を出して買う時代なり、ペットボトルの水は欠かせない存在です。ところで、野口さん、今までで一番おいしいと感じた湧水はどこでしたか?

野口:
いろいろありますが、白神山地でしょう。クマゲラの森の中にある湧水で、スッキリと清冽なのです。湧水は数か所あり、飲み比べると味が違う。山が水に深く関わっていることが改めてわかりました。

本井
偶然ですが、背景の写真は白神山地の森なのです。あそこの水は本当に美味しいですよね。そういう水源地が日本にはたくさんあります。そこに地場産業としてペットボトル工場を建てることが一時期増えたのですが、物流や販路に問題を抱えてしまい、うまくいっているところは少ないです。

野口:
その工場を外国の企業が購入していることも問題です。日本の水源地を狙う海外企業は多く、それを阻止する法律もまだありません。水源の保護は環境問題にとどまらないのです。

本井
だから何とかしたいのです。今、こうしている間も、水工場が海外企業に買われている。私たちが大分の自社工場や北海道の系列工場を持つのは、日本の水資源への深い思いがあるからです。
私たちの工場の周りには、豊かな山があります。今日、お話をして、山の環境保護活動にも力を入れたいと思いました。

野口:
ぜひ、一緒に行きましょう。山はそこに生きる人もおもしろいんですよ。例えば80歳を超える木こりさんは、あっという間に木に登って枝打ちをしています。害獣問題もどこに何の動物がいるかがわかる猟師さんなどが活躍しています。

本井
そうか、山は水のみならず、木の実やきのこなど食べ物の宝庫でもありますね。

野口:
まずは、私たちの河口湖のオフィスに来てください。ここは山に囲まれた廃校を利用しています。ときどき、高齢の方が「ここに通っていたの。懐かしい」と訪問することもあるんです。

本井
水源地をより深く体感するためにも、自然の距離が近いところで仕事をしたいと考えています。ぜひまたお話させてください。今日はありがとうございました。

アルピニスト

野口 健

1973年米国ボストン生まれ。『青春を山に賭けて』(植村直己著)に感銘を受け15歳から登山を始める。高校時代にヨーロッパ大陸のモンブラン、アフリカ大陸のキリマンジャロに登頂し、世界7大陸最高峰登頂の世界最年少登頂記録を25歳で樹立。その後、富士山の清掃活動、ヒマラヤでの学校建設や森林再生プロジェクトなど国内外で多様な活動を続けている。NPO法人富士山クラブ理事長。NPO法人ピーク・エイド理事長。近著に『登り続ける、ということ。-山を登る 学校を建てる 災害とたたかう』(学研プラス)、娘との共著で『父子で考えた「自分の道」の見つけ方』(誠文堂新光社)などがある。
https://www.noguchi-ken.com/

マザーウォーター株式会社 代表取締役

本井 晃一

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、栗田工業株式会社にて水処理エンジニアとして11年勤務。ボランティア活動として「国内天然水の効き水イベント」等を開催。水源各地を巡るなかで、ニッポンの水源の危機的状況を肌で感じ会社設立を決意し、2009年マザーウォーター株式会社を設立。地場資本の小規模水工場の雇用確保、品質向上や安定操業への協力、経営安定化へ寄与する営業協力を行っている。

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